転倒事故が起こると事故原因は「見守りを怠ったこと」と書かれることがあります。
しかし、転倒事故には様々な要因がありこれらの要因を改善する対策を講じないと、根本的な解決には至りません。
半身麻痺などの一般的な身体障害の要因以外で、現場分析を踏まえた転倒要因を例示しますので参考にして下さい。
分類 | 転倒の要因 | 説明 |
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利用者の装備 | 服装 | ゆるいズボンやスソの長いズボンなどは歩行時の障害となるので注意。 |
履物 | 履き慣れた履物が最も安全であり、無理にリハビリシューズなどに替えると転倒の危険が高くなる。ゴム底の靴とビニール床材は相性が悪く、滑らずにつっかかり転倒の要因となる。 | |
入れ歯 | 入れ歯を外したまま歩行すると、バランスを崩しやすくなり転倒の危険が高くなる。 | |
杖 | 買い換えた時など杖の長さがたとえ1~2㎝でも変わると歩行の障害になる。 | |
シルバーカー | 健常な時から使い慣れたものであれば問題ないが、障害を負ってから初めて使用すると危険。 | |
歩行器 | パーキンソン病など疾患の状態によっては、歩行器の使用が危険な場合もある。 | |
疾患 | 膝関節疾患 | 膝関節痛の利用者は、普通に歩行できるように見えても突然転倒する。 |
股関節疾患 | 変形性股関節症などの疾患ではバランスが取りにくくふらつきが多くなる。 | |
足の皮膚疾患 | 水虫・疥癬など足の皮膚疾患も、踏ん張りやバランスの障害となり転倒の危険が高くなる。 | |
注意障害 | 認知症や高次脳機能障害の利用者で注意障害があると転倒しやすくなる。 | |
低ナトリウム血症 | 塩分の控え過ぎや脱水で急激に血中の塩分量が低下すると、意識障害やせん妄が起き転倒する。 | |
無自覚性低血糖症 | 長期間の血圧降下剤の服用やホルモン異常で、自覚症状の無いまま低血糖を起こし転倒する。 | |
低栄養 | 栄養状態が悪化すると姿勢反射などの生理的反射機能が衰え転倒の危険が高くなる。 | |
円背 | 円背が進むと前方の視界が悪くなり、見上げようとして頭を上げた時姿勢が崩れ転倒する。 | |
パニック障害 | パニック障害では不安発作が起こると、発作のピーク時には手足の自由が奪われ転倒する。 | |
てんかん | てんかんの発作により意識障害が起こると転倒する。 | |
聴覚障害 | 聴覚障害も視覚障害と同様に、平衡感覚に悪影響を与え転倒の原因になる場合がある。 | |
パーキンソン病 | すくみ足や小刻み歩行などの歩行障害と、姿勢反射障害によって転倒の危険が高くなる。 | |
服薬 | 糖尿病薬 | 高齢者に不向きな糖尿病薬や服薬量の過剰で、低血糖症による意識混濁が原因で転倒する。 |
血圧降下剤 | 過度な血圧コントロールは起立性低血圧や入浴時の血圧低下につながり転倒の原因となる。 | |
統合失調薬 | リスペリドンでは低血糖症が、スルピリドでは錐体外路症状が現れることがあり転倒の要因となる。スルピリドは十二指腸潰瘍などの、消化器系疾患にも使用されるので注意が必要。 | |
抗うつ薬 | 三環系抗うつ薬は運動失調による転倒を引き起こす場合がある。パロキセチン(SSRI)は抗利尿ホルモン不適合症候群(けいれん・意識障害など)を起こし転倒する場合がある。 | |
パーキンソン病薬 | パーキンソン病薬の飲み過ぎで、錐体外路系が障害され不随意運動性歩行が起こる。 | |
環境 | 環境変化 | 重度の認知症の利用者は急激な環境変化に適応できずに、動作能力が低下し転倒の原因になる。 |
ベッド、椅子の高さ | ベッドや椅子が高すぎると、立ち上がる時にバランスを崩して転倒する。 | |
手すり | 手すりの両端に“曲げ”処理がされていないと、袖を引っ掛けて転倒する。 | |
床の色や模様 | 視力低下や視覚障害の人は、床の色が部分的に暗色になっていると穴や段差に見えて転倒する。 | |
床材 | 古い施設に多いビニル床材は滑性がなく、ゴム底の靴ではつまづいて転倒する危険が高い。 | |
性格 | 遠慮深い | 歩行が危険な状態でもナースコールを押さずに自分でトイレなどに行こうとして転倒する。 |
自立心旺盛 | 歩行が危険な状態でもナースコールを押さずに自分でトイレなどに行こうとして転倒する。 | |
せっかちな性格 | 落ち着きのないせっかちな性格の利用者は、意思と動作にずれが生じて転倒する。 |