A社は従業員15人の建設業です。2年前に従業員に支払う手当の一部を変更したため、就業規則の該当箇所を変更し、労働者代表の意見書と共に管轄の労働基準監督署に提出しました。その際、何人かの従業員には変更内容を口頭で説明したのですが、事業所に備え付けてある就業規則を差し替え忘れており、それが古いままになっていました。この就業規則の変更は認められるでしょうか。
就業規則の効力発生には、労働者への周知が必要になります。上記の事例では従業員への周知が不十分なため、変更後の就業規則の効力は認められせん。
就業規則は、労働時間や賃金等の労働条件の詳細や、職場において守るべき服務規律等のルールを文書化した、労使間のルールブックです。多くの労働者を雇用し、会社の目的に沿って労働をさせるにあたって、共通の労働条件やルールを定めておくことは非常に重要です。
労働基準法では常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成する義務を負うと定めています。この常時10人には、パート社員や契約社員も含まれ、届出は支店や工場等の事業場ごとに行なう必要があります。
また、就業規則には労働時間や賃金等の必ず定めて記載をしなければならない「絶対的必要記載事項」と、退職金や制裁事項等の定めをする場合は記載をしなければならない「相対的記載事項」があります。
労働基準法では、就業規則の作成・変更手続きとして、下記の要件を定めています。
(1) 過半数労働組合または労働者の過半数代表者からの
意見聴取義務(労基法90条)
(2) 管轄の労働基準監督署長への届出義務(労基法89条)
(3) 労働者への周知義務(労基法106条)
このうち(3)の労働者への周知義務に関しては下記のいずれかの方法により周知させなければいけません。
1. 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、
または備え付ける
2. 書面を労働者に交付
3. 磁気テープ、磁気ディスク等に記録し、
各作業場に記録内容を常時確認できる機器を設置する
要するに、作成・変更後の就業規則を常時見やすい場所に置いておく、印刷して配布する、社内サーバーに置いて閲覧できるようにする等、従業員全員が必要な時に見ることが出来る状態にしておかなければいけません。また、上記3つの方法に限らず、実質的に周知させる方法を取れば、その変更の効力が生じるとされた判例もあります〔クリスタル観光バス(賃金減額)事件 平成19.1.19判決 大阪高裁〕。
上記事例の会社では、労働者への周知という面で不十分であり、変更後の就業規則の効力は認められません。事業所備え付けの就業規則を変更後のものに差し替えておらず、また、一部の従業員に口頭で伝えただけでは、実質的な周知とは言えないためです。
このように就業規則では、意見聴取と届出をしっかりと行っていても、周知を怠るとその効力が発生しない場合があるので注意が必要です。この機会に御社の就業規則が従業員に周知されているか、ご確認されてはいかがでしょうか。