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2012年 12月号 労働災害が起こったとき
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ある化学薬品製造会社の事例

 ある地方都市で化学薬品を製造している甲社の話です。その会社の従業員は正社員11人とパート社員3人の中小企業です。ある朝、1年程前に入社した40歳の営業部長職にある丙氏の奥さんから、乙社長に丙の体調が悪いので休ませて欲しい、との電話がありました。社長は、疲れがたまっているのかな、まだ入社してから1年位だから、無理しているのかもしれないなと思いつつ、お大事にと返事をしました。

気の毒に思い、押印したが・・・

 次の朝、その奥さんが会社にやって来ました。そして、「主人は業務中にガスを吸って肺を悪くしてしまった。労災だからこの書類に会社の印鑑をください。病院と労基署に提出しなければならないので今すぐにください。」と言って『療養補償給付たる療養の給付請求書』『休業補償給付支給請求書』『労働者死傷病報告』という3種類の書類を差し出しました。よほど丙氏夫妻は労災について調べたようで、それぞれの書類の災害の原因と発生状況を記載する欄はすべて自分達で記載してきました。
社長は、化学薬品の製造会社とはいっても、工場は別の場所にありガスを吸うような環境にはないが…と思いその旨を奥さんに話しましたが、丙はたまに工場に行くこともあり、そのときにガスを吸った、と言い張り執拗に事業主の押印を求めてきます。社長は根負けし、また気の毒にも思い、それほど長引かずに治るだろうくらいの気持ちでそれらの書類に押印をしました。

 ところが、数ヶ月たっても丙氏の病状は一向に良くならず「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」が毎月送られてきます。社長も不審に思い始め、丙氏を会社に呼び出しました。しかし、来たのは奥さんでした。奥さんは「丙は一向によくならない。会社に対して損害賠償の請求も考えている。」と言いました。社長は、好意を無にされたように感じましたが、社会保険料だけでも自己負担分を支払うように要求しました。しかし奥さんは、丙が病気になったのは会社の責任だからと言って支払おうとしません。実は丙氏の社会保険料は、健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料を併せるとその時点で1 ヶ月約9万4千円にもなります。本来は会社と従業員の折半のはずですがこれを会社が全額負担しているため、年間では112万円を超えてしまいます。

解雇は可能か?

 そのまま、ずるずると1年が経ってしまいました。途中で解雇も考えましたが、労基署に相談に行っても、労働災害による療養中は解雇できない、と言われてしまい、思い余って弁護士に相談すると、弁護士は「確かに労働基準法は『業務上の負傷疾病による休業、産前産後の休業期間およびその後30日間は解雇できない。』としている。ただし、療養開始3年経過後、使用者が平均賃金の1200日分にあたる打ち切り補償を支払えば解雇できる。」と言いました。しかし、平均賃金の1200日分と言えば丙氏の場合は約2千万円にもあたり、とても支払えません。その弁護士になぜ業務災害と認めて印鑑を押したのか、と質問されましたが、社長は業務災害だとは思っていませんでしたが…、と言っただけで後は答えられませんでした。

 社長は次に社会保険労務士を訪ねました。社会保険労務士は、労働者災害補償保険法施行規則18条の2第2項というものを示し「労働基準監督署長は、業務上の事由により負傷し、又は疾病にかかった労働者の当該負傷又は疾病が療養の開始後1年6ヶ月を経過した日において治っていないときは、同日以後1ヶ月以内に『傷病の状態等に関する届出書』を当該労働者から提出させる。」とあり、労基署長が職権で調べ、丙氏の状態が傷病等級の1級から3級に該当すれば休業補償給付は、傷病補償年金に移行することになり、さらに療養開始後3年経って傷病補償年金を受け取っている時は、打ち切り補償を支払ったと見なされます。」と教えてくれました。

 しかし、社会保険料については、丙氏が自己負担分を支払ってくれない以上、依然として全額支払いを続けなければなりませんし、丙氏がこのまま休業を続けた場合は、3年経ってみないと丙氏を解雇できるかどうかもわかりません。社長にとっては、憂鬱な毎日です。

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資料作成:社会保険労務士 吉田達事務所 吉田達
※本ニュースを無断で複製または転載することを禁じます。

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